やわらかい日差しにさわやかな南風が吹く5月。
海ももう泳げるし、山を歩いても涼しい、一番いい季節になりました。
毎月「一番いい季節」と言っているので、そろそろ何が本当か分からなくって来ていると思いますが、ホントいい季節なんです。
最近ではかなり有名になった蛍もこの頃。竹の子やモズクを手土産に「またこの時期に来ます」と帰りの船に乗り込む民宿のお客さんも多くいらっしゃいます。
今回は5月の山の幸、竹の子について話したいと思います。
西表には使い方を把握しているだけでも5〜6種類の竹があります。
昔、屋根の上に束ねた小さい竹。畳の下に敷いた中ぐらいの竹。猪の罠に使う竹。釣竿にした、しなりのある竹。お正月の門松に使う、一番大きな竹。
そしてそれぞれが、籠などの道具、伝統工芸に使われてきました。
その中でも食用となっているのが、4〜5月に採れるリュウキュウチクと7〜8月に採れる夏の竹の子、モウソウチクです。
大きなモウソウチクは、昔の田んぼの山裾に人公的に植えられたものがほとんど。今ではヒルギやアダンが生い茂り、ジャングルの一部と化した昔の田んぼ後。竹の場所を知っている、ごく限られた島の先輩方のみが収穫できるレアな竹の子でもあります。僕も昨年、初めて親父からいくつかの場所を伝授して貰いました(秘)
だけど、今年の夏に行ってみないと、そこまでの山道をちゃんと覚えているかどうか・・・
そして、今シーズンを迎えているのがリュウキュウチクの竹の子。
竹の子採りは島の人の一番の楽しみでもあります。
「楽しみながら、収穫しながらのいい運動」と健康の為にと山に登る島の人も。いわば竹の子ダイエット。
そのポイントは集落の横手にそびえる桃原山。(とうばるやま)
5歳から祖母と一緒にその竹林に通い始めた僕。小学6年生の時、あの広大な竹林の道を覚えた時の、なんとも言えない優越感は今でも忘れられません。
竹の子採りは山の中腹から始まる竹林を1〜2時間ほど歩き回り、俵袋のいっぱい収穫します。担いで降りてくると、収穫までにかかった倍の時間をかけて竹の子の皮をむき、黄緑の柔らかい部分だけを包丁で切り取ります。
湯がいて炒めたらほんのわずかで、そこまでの難儀と引き合うものではありませんが、翌日もまた登ってしまうのです(笑)
それでも、幼い頃から何度もあの山で迷いました。
竹林とヒルギ林は迷うものではありません。
どこを歩いて同じ景色。竹は登れないので、高いところから現在地を確認することもできません。見えるのは四方八方の竹と真上の青空だけ。
迷ったら、わかる場所にたどり着くまで、ひたすら歩き続けるいしかないのです。
焦れば焦るほど日は暮れるし、降りようとすればどこに行っても崖にぶち当たる。
小学生の頃、「もう迷ったら怖いから登らない」と弱音を吐いた僕に、おばあちゃんがひと言。
「迷ったら登りなさい。」
「そしたら頂上に着くでしょ。頂上には印があるから、そこはあんたもわかるでしょ。降りようとしたらだめよ。」
たかが竹の子採り。されど竹の子採り。
こうして生きる術を教わっってきた僕は、「幸せだなぁ」「贅沢だなぁ」とつくづく思うのでした。
(2014.5.8掲載)